〔愛別、比布〕飼料価格が高止まり、自給飼料の重要性が増す中、北海道でここ数年、稲WCS(ホールクロップサイレージ、稲発酵粗飼料)の生産と、酪農畜産農家での活用が少しずつ広がっている。「歴史を作るのに20年ほどかかった」と振り返るのは、道内における稲WCS生産の先駆け的存在と言える上川中央農協(上川管内愛別町)の大村正利組合長。北海道農協中央会が8月29日に企画した報道機関への現地説明会で、「稲の飼料化により、生産者同士を結ぶ真の耕畜連携を実現させたい」と力を込めた。

  大村組合長は、水稲を中心とする農業経営者だが、稲WCSへの取り組みを模索し始めたのは、2000年代初頭のことだ。「米農家にとって、転作というのは避けられない宿命。01~02年頃は、米の余剰が出る中、割り当てられた以上の生産が見込まれる場合、青刈りのまま刈り取って捨てざるを得ない例もあった」という。そうした中、道外で始まり出していた稲WCSに着目、「生産調整を守りつつ、稲を生産できる点で取り組みやすい」と考えた。05年には近隣の農家で集まり、稲WCS生産部会を設立、専用の収穫機を導入し、本格的に生産し始めた。

 現在、愛別町内では12戸の農家が稲WCSを作付けしている。稲の刈り取りやラッピング作業は、大村組合長が代表社員を務める合同会社Aのー(えーのー)が受託。同社は近隣の比布町など町外11戸の作業も担っており、現在の作業受託面積は町内外合計約80㌶に上る。

 この日の現地説明会では、比布町のほ場の刈り取り作業を公開。専用の収穫機が次々に稲を刈り取ると同時に、乳酸菌を添加しながらロールを形成する。出来上がった1個400㌔ほどのロールは、ラップマシーンで梱包される。販売先は、道内有数のメガファームを含む十勝管内の酪農畜産農家などが中心だ。



専用機で刈り取られる稲WCS


 稲WCSの生産に当たり、気を遣うのは「とにかく品質」。大村組合長は「供給したものを前に、牛が横を向かないこと、使ってもらう酪農畜産農家の信頼に応えることが何より重要。生産時には、土壌菌が付着する恐れがあるため、稲は倒さないよう気を付ける。雑草対策も怠らない。刈り取りの際も、水分含量に気を遣い、朝露が消えてから作業するなど対応を徹底している」と強調する。

  ここ数年は、輸入飼料の高騰を背景に、酪農畜産サイドのニーズは高まっている。「供給に応えられないほど問い合わせが来ている」というが、課題も少なくない。大村組合長は「稲WCSの産地を増やそうとしているが、品質の安定化は課題の一つ。上川、石狩、空知という道内の水田地帯一丸で取り組み、どの地域も同じ安定した品質となれば、広域流通も可能だ。一方、酪農畜産側も飼料価格が下がれば、利用しなくなる可能性がある。顔が見える生産者から生産資材を供給されることで、安心感が生まれるというのも大事な点だし、稲や米育ちの牛乳・乳製品、畜産物という点を消費者にPRすることもできるのではないか」と話している。



作業中のほ場で稲WCSについて説明する大村正利上川中央農協組合長