アイルランド有数のチーズ生産量を誇る乳業メーカー、カーベリー社のジェイソン・ホーキンスCEO(最高経営責任者)は、同社のナチュラルチーズ(NC)を通じ、日本の食品企業の課題解決や、魅力ある商品開発に積極的に貢献していく考えを強調した。持続可能性に配慮した同社のNCについて、より多くの消費者にPRしていく意向も示した。プロモーションで来日した際、酪農乳業速報の単独インタビューに答えた。
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―カーベリー社はアイルランド有数のチーズメーカーとして知られています。企業概要を教えてください。
「当社は年間約5億8000万㍑の生乳を処理し、▽チーズ▽ホエイプロテインを中心としたニュートリション▽フレーバリング―の3事業を展開しています。年間売上高は約6億3000万ユーロです。乳資源の多くをチーズに仕向け、チーズ生産量は約6万㌧。内訳はチェダーが8割、残り2割がモッツァレラとなります。チーズの輸出先は英国、欧州各国、北米などで、日本も重要な市場と位置付けています。日本向けには、プロセス原料用のチェダーを中心に年間約3000㌧を輸出しています」
―カーベリー社の拠点はアイルランド南部の西コーク地方です。環境に配慮した生乳生産に取り組んでいると聞いています。
「西コークは古くから酪農が盛んで、創立100周年を迎える協同組合が活動しています。当社は、そうした4組合が出資し、生乳の高付加価値化を実現する企業として1965年に設立されました。現在は約1200戸の酪農家が当社に生乳を出荷しています。酪農家の多くは、乳牛飼養頭数90頭前後の家族経営です」
カーベリー社が拠点を置くアイルランド・西コーク地方の酪農風景
「西コーク地方は雨量が豊富で、牧草生育に適した気候が続きます。夏は涼しく、冬も寒すぎない環境の下、牛たちは年間300日を放牧地で過ごし、飼料の85%は牧草で賄われます。当社と酪農家は生乳生産にあたり、持続可能性に向けた独自施策を展開しています。『フューチャープルーフ』がそれで、環境に優しく効率的な肥料の使用やアニマルウェルフェア(動物福祉)に準じた乳牛の飼養管理、水の使用量低減、二酸化炭素(CO2)排出量の削減など、環境と酪農経営にプラスとなる取り組みを続けています。当社は昨年、独自に500万ユーロの予算を組み、取り組みを後押ししました。もう一つの環境プログラムであり、気候変動に左右されない酪農モデルの構築を目標とする『ファームゼロC』では、デモ農場で得られた知見を酪農家に広めることで持続可能な取り組みを強化しています。2023年は、18年比で、27%のCO2排出量削減につなげました」
―カーベリー製チーズの特長を教えてください。
「定番のチェダーチーズとモッツァレラチーズに加え、取引先の要望を踏まえた商品開発にも力を入れています。カスタムメイドなチーズは『味わい』『栄養』『機能性』の三つの要素にこだわっています。味わいについては、消費者の嗜好性は国や地域によって異なりますから、各国の消費者が求める傾向を調べ、最適な商品を提供します。栄養面では、低脂肪や高タンパクなどの特徴を備えたアイテムを用意します。最後の機能性では、のびるタイプや溶けるタイプなど、多彩な物性をもつアイテムを業務用・家庭用それぞれで提供します。取引先のニーズに対応できるのが当社の強みです。併せて安定供給もお約束します」
カーベリー社は市場ニーズに合わせた商品提供が可能。写真は日本向けに開発した「ウマミゼン」
「アイルランドは世界で最も環境に配慮した酪農システムを持つ国のひとつです。そのため私たちのチーズは非常にサステナブルな方法で生産されています。グラスフェッドによるチーズが栄養面でも充実しているのは言うまでもありません」
―カーベリーが日本の市場で目指すものは何でしょうか。
「私たちは、日本のお客さまとともに、そのニーズに合った解決策を見つけ、協力し合いながら、長期的な関係を築いていきたいと考えています。日本は、当社にとって2017年以降に輸出が活発化した市場です。比較的新しいとは言え、我々にとって重要な取引先です。日本の食品流通は常に新しい発見を求めており、『次は何?』とワクワクさせられます。こうした特徴ある市場の食品企業と関係を維持することは、当社が常に最高品質のチーズづくりを行っていく上で大きな利点となります。繰り返しになりますが、我々は最もサステナブルで最高品質のチーズをお届けする食品企業です。日本市場につながる扉を、いつでも開けています」