最大震度7を観測した能登半島地震の発生から5日目を迎えたものの、被災地では今も停電や断水、道路の寸断が続いており、酪農家の不安や疲労はピークに達している。一部には電気が復旧し搾乳できている牧場もあるが、断水状態が続く中、川の水で搾乳システムを洗浄しなければならず、ミルクローリーも来られないため、「搾っては捨て、搾っては捨ての日々」が続いている。
「早急な支援が必要。私たち被災地の酪農家が直面している状況を伝えてほしい」
能登半島先端の能登町で乳牛47頭(うち搾乳牛32頭)を飼養する西出穣さん(にしで・みのるさん、36歳)は酪農乳業速報の取材に切実な声で訴える。
震源地に近い同町はその日、これまでに経験したことない激しい揺れに襲われ、西出さんの家屋も損傷。牛舎は片側の屋根瓦が崩れ落ち、雨漏りする状態になった。内部も被害を受け、床がところどころで隆起している。牧草地には数十㍍にわたって亀裂が走り、高さ数㍍の段差が生じている状態。現地では震災後、ぐずついた天気が続き、牛たちは、雨漏りする牛舎の中で耐え忍んでいる。今週末には大雪も予報されており、さらに厳しさが増す恐れがある。
屋根瓦が崩れ落ちた牛舎(西出牧場のフェイスブックより)
西出さんの地域では、地震発生後1時間ほどで電気は復旧したものの、断水は今も続いている。近くの川から水を汲み、トラクターで運んで牛に与える毎日だ。「震災の影響で川の水は濁っているし、配合飼料の給与量も減らしているので牛たちはやせてきた。毛づやが悪いし、神経質にもなっている。配合飼料が底をついても自給飼料でしばらくは凌げるが、昨年産の牧草は干ばつで収量が少なかったため、いつまでもつかどうか」と不安げな表情だ。
牛たちの健康を守るためには、生活リズムを崩さないことが大切と考え、搾乳は震災前と同じく1日2回実施。妻は避難しており、西出さんと父親、帰省中だった弟の3人で作業している。ただ、搾乳システムは川の水で洗浄せざるを得ない。道路の寸断でローリーも牧場まで来られないため、搾っても捨てるしかない。西出さんは「電気が止まっている酪農家はさらに深刻な状況。一刻も早く電気と水道を復旧してほしい」と訴える。
西出牧場は今も断水状態のため、川から汲んできた水を、バケツで1頭1頭に与えている(同牧場のフェイスブックより)
能登半島では、牛舎が倒壊し牛が下敷きになってしまった酪農家もいる。いまだ停電が続いている牧場も多く、「早く自家発電機を届けて!」と悲痛な叫びが聞かれる。先の見えない状況に酪農家の不安や焦り、疲労はピークに達しており、なかには「能登半島は2年ほど前から繰り返し地震に見舞われている。今回のような大地震が再び起こる可能性を考えると、今後もこの場所で酪農を続けていいのかどうか…」とうつむき気味な人も。
そうした酪農家の不安を少しでも和らげるためにも、今は一刻も早いインフラの復旧とともに、自家発電機の提供や給水車の派遣が求められている。その後の経営再建に向けては、様々な金融支援とともに、乳代の補償や乳牛の導入補助、牛舎の修繕支援なども必要になる。