能登半島地震で大きく傾いた松田牧場の牛舎。木材で補強しているが、いつ倒壊してもおかしくない
能登半島地震で大きく傾いた松田牧場の牛舎。木材で補強しているが、いつ倒壊してもおかしくない

 今年元旦の能登半島地震で甚大な被害を受けた松田牧場(石川県珠洲市、松田徹郎さん、35歳)は24日から、全壊した牛舎の再建費用の一部に充てるため、クラウドファンディングを開始した。目標金額は3000万円で、募集期間は9月8日まで。全壊した牛舎2棟(各30頭規模)の代わりに50頭規模の牛舎1棟を新設し、経営再建を図りたい考えだ。松田さんは「今後もこの地で酪農を続けたい。酪農業界と地域に貢献したい」と再起を誓う。

  松田さんは2014年に20代で新規就農した。獣医師の父親の影響で牛に興味を持ったのをきっかけに、石川、長野両県の牧場で働いた後、後継者がおらず廃業せざるを得なかった現在地の牧場を買い取り、酪農家となった。当初の飼養頭数は約10頭。徐々に増頭し、酪農と和牛繁殖とで130頭まで拡大した。放牧主体で、低コストかつ牛を健康に育てることを大事にしてきた。


   

能登半島地震からの再起を誓う松田徹郎さん


 能登半島地震に襲われたのは、就農から10年が経ち、経営が軌道に乗ってきた矢先だった。能登半島の先端・珠洲市の最大震度は6強。幸い従業員ともども命に別状はなかったが、4棟ある牛舎のうち2棟が全壊した。松田さんの住居も壊れ、家族が住める状態ではなくなった。

 さらに追い打ちをかけたのは、地震発生直後から続いた停電と断水だった。現在の酪農は高度に機械化されているため、電気がなければ搾乳も生乳の冷却もできない。酪農には大量の水も必要で、牛の飲み水はもちろん、搾乳機械の洗浄にも不可欠だ。電気は早い段階で自家発電機を借りられたものの、たった数日、これまで通りの搾乳ができなかっただけで、牛たちは乳房炎になった上、ダメージで乳量が震災前の4分の1にまで落ち込んだ。

 断水に至っては、地震発生から半年近く経った今も続いている。松田さんは従業員とともに、牛の飲み水として山の湧き水6㌧を毎日3時間かけて牧場に運搬。パイプラインやバルククーラーの洗浄用には、珠洲市が給水してくれる浄水を使用しているという。

    

停電中は手作業で搾乳を続けたが、廃棄せざるを得なかった

    

地震発生から半年経った今も水道が復旧せず、毎日3時間かけて牧場に水を運んでいる


  松田さんは地震発生後、停電と断水の影響で生乳を出荷できず、1ヵ月半もの長期にわたり廃棄を強いられた。この間の乳代は、石川県酪農協などが募集した災害義援金で補填してもらったものの、震災のダメージで個体乳量が落ち込んだり、牛が病死したこともあり、生乳生産量は今も震災前の3分の2程度にしか回復していないという。現在の総飼養頭数は110頭(うち搾乳牛23頭)で、震災前の130頭(同30頭)から15%減少している。

 それでも松田さんは、この地で酪農を続けることを諦めていない。経営再建のために、全壊した牛舎2棟を取り壊し、50頭規模の新牛舎を建設したい考えだ。

 とはいえ、牛舎再建には多額の費用がいる。松田さんによると、牛舎建設費は2億円。バーンクリーナーやパイプラインミルカー、バルククーラー、自動給餌機、暑熱対策用のファン、ウォーターカップなどの付帯設備も合わせると、総額2億4400万円にのぼる。行政の補助(1億8000万円)を受けても、6400万円の自己負担が必要だという。被災農家にとって、これだけの額を支払える余裕はない。そこで今回のクラファンでは、約半分の3000万円を目標に建設費の一部を募ることにした。

 「石川県はもとより全国で酪農家が減少していく中、私には酪農を続け、生乳を出荷していく使命があると思っている。それに加えて、牛のエサやりや乗馬、ホースセラピー、動物と牧場が作り出す牧歌的な風景など、この地、この牧場ならではの体験を多くの人たちに提供していきたい。今回の地震では、大勢の人が家をなくし、仕事をなくし、大切な人を亡くした。奥能登に住む人たちが、自然と共生する喜びや癒しの体験を通じて、『ここに住んで良かった』と、心からそう思えるような町づくりの一端を私も担いたい。これからもここで酪農を続けていきたい」。松田さんはそう力を込める。

 クラファンのリターン(お礼)には、松田牧場をはじめ能登半島の生乳を使用した「のとそだち牛乳」「のとそだち のむヨーグルト」(製造はアイ・ミルク北陸)や、能登出身の世界的なジェラート職人が能登の牛乳などで作る「マルガージェラート」、地域のブランド牛「能登牛(のとうし)」などを用意している。

 松田牧場のクラファンページは、専用サイトCAMPFIREから。プロジェクトの名称は「能登半島地震で被災し全壊した牛舎を建て直したい」。

 

クラファンの返礼品には「のとそだち牛乳」などを贈る