欧州の最西端に位置する酪農先進国、アイルランド産の乳製品が注目されている。おいしさだけでなく、環境に最大限配慮しながら生産・加工された生乳や乳製品が、酪農産業の持続可能性に大きく貢献しているためだ。同国関係者の間では、こうした商品特性が日本の消費者のニーズに合致するとみており、日本向けの新商品開発や輸出に一層力を入れていく方針だ。
アイルランドは、欧州大陸の西に位置する島国で、広さは北海道とほぼ同じ(690万㌶)。年間を通じ雨が豊富で、牧草生育に最適な気候が続く。同国内で営農する約1万8000戸の酪農家の過半数は放牧主体の家族経営で、乳牛に給与する飼料の90%以上を牧草で賄っている。年間80億㍑にのぼる、いわゆる「グラスフェッド」の生乳は多彩な乳製品に加工され、世界中に供給している。日本にもチーズを中心に、約1万7000㌧を輸出し、存在感を放っている(ボードビア『Performance & Prospects』から引用)。
同国の酪農は、自然環境に最大限配慮しているのも特徴だ。行政や酪農家、乳業メーカー、流通事業者が一体となって、持続可能性の実現に取り組んでいる。2012年からは「オリジン・グリーン」がスタート。これは同国政府食糧庁(ボードビア)が主導し、同国サプライチェーン全体で持続可能性の維持に取り組む独自プログラムだ。EU(欧州連合)にはもともと、加盟国が順守する厳格な食品法があり、安全・安心を高い水準で実現している。オリジン・グリーンはそうした基準をカバーしつつ、アニマルウェルフェア(AW、動物福祉)など幅広いジャンルを網羅している。
同国内の酪農家は、ほぼ全戸がSDAS (Sustainable Dairy Assurance Scheme)としてプログラムに参加・認証を受けており、「温室効果ガスの排出量」「水の管理」「AW」「生物多様性」「草地管理」「農場の安全」に取り組んでいる。酪農家は1年半ごとに第三者機関から放牧状況や牧草への化学肥料散布量など170項目のデータについて検証を受ける。検証内容はデータベースに送信され、温室効果ガスをどの程度削減できたかなど、取組内容を数値化して集計。結果は後日、酪農家にフィードバックされ、改善が必要な内容についてアドバイスが送られる。
こうした取り組みはCO2(二酸化炭素)の排出量削減に成果を上げている。例えば同国内では、酪農現場のCO2排出量がオリジン・グリーン開始以降、低下傾向が続いており、3ヵ年の移動平均を計測したところ、直近19~21年の値は当初に比べ約1割も減少した(ボードビア『Origin Green Progress Report 2023』から引用)。
安全・安心、そして持続可能性を備えたアイルランド産ヨーロピアン乳製品は、衛生的で高付加価値な食品を志向する日本市場には馴染みやすいアイテム。今後は欧米と歩調を合わせ、製造過程で環境に配慮した食品を求める、いわゆる「エシカル消費」の加速が見込まれることから、ニーズはさらに増すと予想されている。
ボードビア関係者は「高品質で機能的なアイルランド産のヨーロピアン乳製品を求める日本市場は、我々の考えと合致している」として、日本を重要な市場に位置付けていく方針だ。